記述的研究¶
科学的探究の領域において、実験的研究が「なぜ」を回答することを目的とするなら、記述的研究(descriptive research)は、より基本的かつ同等に重要な質問である「それは何か」に焦点を当てます。これは非介入的な研究パラダイムであり、特定の集団、現象、状況の特性を体系的かつ正確に観察し、記述することを目的としており、介入や操作は一切行いません。記述的研究は、世界の特定の側面について「スナップショット」や「肖像画」を提供してくれます。
記述的研究は多くの科学的探求の出発点です。ある現象を説明する前に、まずその姿を明確に理解する必要があります。国勢調査における国の人口構造の記述から、市場調査でのターゲット顧客の消費習慣の理解、動物行動学における種の社会的行動の記録に至るまで、記述的研究は世界についての理解を築くための基礎的な事実とデータを提供します。
記述的研究の主な目的と方法¶
記述的研究の主な目的は因果関係の検証ではなく、以下の点にあります:
- 特性の記述(Characterization): 調査対象のさまざまな特性を描写します。例えば、クラス内学生の平均年齢、男女比、平均GPAなど。
- 頻度統計(Frequency Statistics): 特定の行動や出来事の発生頻度を計算します。例えば、ある地域の犯罪率や、有権者の中で候補者の支持率など。
- 分類(Classification): 特定の基準に基づいて調査対象を分類します。例えば、「初心者ユーザー」「通常ユーザー」「エキスパートユーザー」のようにユーザーを分類します。
- 傾向の把握(Trend Identification): 異なる時間点で記述的研究を行うことで、変化の傾向を把握できます。例えば、過去10年間におけるスマートフォン利用の変化を追跡します。
これらの目的を達成するために、記述的研究では主に以下の3つのデータ収集方法を用います:
graph TD
A(Descriptive Research) --> B(Core Objective: Answer "What is it?");
B --> B1(Portray Characteristics);
B --> B2(Statistical Frequency);
B --> B3(Perform Classification);
A --> C(Main Data Collection Methods);
C --> C1(<b>観察法</b><br/>自然または実験室環境で行動を体系的に観察・記録<br/>する方法);
C --> C2(<b>調査法</b><br/>アンケートやインタビューを通じて<br/>サンプル集団から情報を収集する方法);
C --> C3(<b>ケーススタディ</b><br/>単一または少数の事例について<br/>詳細かつ包括的に記述する方法);
記述的研究の実施方法¶
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研究質問を明確に定義する まず、「何」を記述したいのかを明確にします。質問は明確かつ具体的である必要があります。例えば、「大学生のSNS利用について研究したい」から、「特定の大学の学部生における1日平均SNS利用時間、最もよく利用されるプラットフォーム、SNS利用の主な動機は何か?」と具体化します。
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研究対象とサンプリングの決定 研究母集団を定義します(例:「特定の大学に在籍するすべての学部生」)。母集団全体を調査することは現実的ではないため、適切なサンプリング手法(例:学年や専攻ごとの代表性を確保する層化抽出法など)を用いてサンプルを選定する必要があります。
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データ収集ツールの選定と設計 研究質問に基づいて最も適切な方法を選択します。
- 調査法を選択する場合、構造が明確で曖昧さのない質問を含むアンケートを作成する必要があります。
- 観察法を選択する場合、観察対象の行動や記録方法を明確にした詳細な観察チェックリストを作成する必要があります。
- ケーススタディを選択する場合、インタビューのアウトラインや収集する文書などを決定する必要があります。
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データの収集 決定された計画に従って体系的にデータを収集します。この過程で一貫性と正確性を保ち、誤差を最小限に抑えます。
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データの分析と結果の提示 収集されたデータを整理・分析します。これは通常、以下の記述統計の計算を含みます:
- 代表値(Measures of Central Tendency): 平均、中央値、最頻値。
- 散布度(Measures of Dispersion): 標準偏差、分散、範囲。
- 度数分布(Frequency Distribution): 割合、度数分布表。 最後に、チャート(棒グラフ、円グラフ、折れ線グラフなど)やテキストを用いて、研究結果を明確かつ直感的に提示します。
適用事例¶
事例1:国勢調査
- シナリオ: ある国が社会経済的計画のために人口の基本的な状況を包括的に把握する必要がある。
- 適用: 全国すべての世帯にアンケートを配布し、世帯構成員の年齢、性別、学歴、職業、収入などの大量のデータを収集します。最終的な国勢調査報告書は、その国の人口状況に関する記述的研究報告であり、「その国がどのような状態か」、例えば高齢化の程度や都市・農村人口比率などを示します。
事例2:市場調査におけるユーザー・ペルソナ構築
- シナリオ: スポーツブランドがコア顧客層について深く理解したい。
- 適用: 会社は会員データベース内の1万人のユーザーに詳細なオンラインアンケートを送付し、運動習慣、ライフスタイル、消費嗜好、メディア利用習慣などを尋ねました。収集されたデータを分析することで、「週に3回ジムに通い、機材の専門性と見た目を重視する25歳の都市在住フィットネス愛好家」などのコアユーザー・ペルソナを描画しました。この記述的研究報告書は、その後の製品設計およびマーケティング戦略に明確なターゲットを提供しました。
事例3:ジェーン・グドールによるチンパンジー研究
- シナリオ: 有名な霊長類学者ジェーン・グドールが野生チンパンジーの社会行動を理解したい。
- 適用: 彼女はタンザニアのゴンベ川国立公園で何十年にもわたり継続的かつ体系的な自然観察を行い、チンパンジーの食性、社会的相互作用、道具使用などの行動を詳細に記録しました。彼女の研究は古典的な記述的研究であり、変数を操作することなくチンパンジーの現実的な生活の姿を描き出し、この種に対する我々の理解を根本的に変えました。
記述的研究の長所と限界¶
主な長所
- 基本的理解の提供: 相関研究や実験的研究など、さらなる研究に必要な基礎および背景情報を提供します。
- 自然で真実性が高い: 通常、自然な環境で行われるため、本質的な、操作されていない現象を捉えることができます。
- 幅広い適用性: 社会科学、市場調査、公衆衛生など多くの分野で広く用いられ、方法も比較的実施しやすいです。
潜在的な限界
- 因果関係を推論できない: これが最も基本的な限界です。「何であるか」は示せても、「なぜそうであるか」は示せません。例えば、喫煙者の肺がん発生率が高いことを記述することはできますが、それだけでは喫煙が「肺がんを引き起こす」と結論づけることはできません。
- 観察者のバイアス: 観察法では、研究者の存在や主観的な期待が観察対象の行動に影響を与える可能性があります。
- サンプルの代表性の問題: サンプリングが適切でなければ、研究結果は母集団の実態を正確に反映しません。
拡張と関連¶
- 相関的研究: 記述的研究は相関的研究の基礎です。2つの変数(例:「学習時間」と「試験得点」)をそれぞれ記述した後、相関的研究はそれらの間にどのような関係があるかをさらに探求します。
- 質的研究におけるケーススタディ: ケーススタディは記述的研究手法であると同時に重要な質的研究手法でもあり、単一の事例について詳細かつ包括的な記述を重視します。
出典: 記述的研究は基本的な研究パラダイムとして、社会・行動科学における研究法に関するさまざまな教科書にその方法論が記載されています。Kenneth D. Bailey著『Methods of Social Research』には、この点について古典的な議論が含まれています。